冬芽が解放される物語(アドゥレセンス黙示録)
「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」は、冬芽が解放される物語だ。
(文庫版に収録)
昔々あるところに
世界中の女の子をお姫様にする薔薇の王子様がいました。
けれど王子様は知っていました。
自分が定められた世界の、定められた方程式でしかないことを。
さぁ、どこにいるんだろ…
彼の妹が、彼を城の塔に閉じ込めてしまって以来、誰も姿を見ていないらしい…
このセリフは、作中に二度出現する。そしてその両方とも、冬芽は同じ表情、同じポーズ、同じシチュエーションでそのセリフを述べている。
相手が違えども、冬芽は同じセリフを繰り返す。
定められた世界の定められた方程式
この冬芽には、自動音声ロボットのような不気味さがある。「ある条件を満たすことにより」同じ場面を繰り返しているように見える。
二度目の時は物語の流れ的にも不自然ではなく、ウテナにだけ打ち明けているようにも見えるけれども、読者はすでに同じセリフを物語の冒頭で読んでいる。モブ相手に語られていることを鑑みるに、おそらくこれは何度も繰り返されており、たった二度だと考える方が不自然だろう。
冬芽は、ある条件が揃った時に発動する、「定められた方程式」(王子)そのものなのではないだろうか。
君の心がオレを想う限り
ウテナとの決闘後、冬芽は消える。制服のみを残して。しかしその直後、ウテナはプールサイドで冬芽に再会する。消えたり現れたり、いかに「魔法の世界」でも「漫画」でも不自然すぎやしない?という感想だったが…。
その世界で、冬芽が「すべての女の子の王子さま」という役割を担っているなら、納得できる。つまりウテナに限らず、女の子が望むかぎり、「冬芽は存在する」のでは?
決闘の時、一度はウテナは「王子さま」冬芽を好きだと認め、同時に心の中で決別し、結果、ウテナの「王子さま」は消えた(昇華)。
プールサイドの冬芽は、別の女の子が「王子さま」を想う力により、再び「存在」したのではないだろうか。女の子の心が求める限り、「冬芽」は存在するのでは?
永遠の奉仕からの解放
オレのためにも
君が解放してくれ
ここから…!!
このセリフを読んだ時、はじめはぼんやりと「ウテナの幸せを望むからこそ、『(君の幸せを望む)オレのためにも』解放してくれ、と言ってるんだろうな」と思っていた。
しかし、冬芽がすべての女の子の王子さまであり、その心が求める限り永遠に存在し、女の子への奉仕を運命付けられているとしたら、それは義父との関係と同じこと。それこそが冬芽が逃れたかった「永遠」ではないのだろうか。
(もちろんウテナを学園世界から解放したい気持ちもあったし、まずはそれが第一と思う)
世界の果てまで(絶望)
ウテナと冬芽が結ばれた時、ウテナはとても幸せそうに微笑んでいるのに対し、冬芽はほとんど無表情であるのが印象的だ。
「世界の果てまで 君を愛し続けることを誓うよ」
と一見情熱的なセリフを言いつつあの無表情は?と考えた時、あの学園世界にとどまり、ウテナと永遠に共に存在するということは、冬芽にとっては同時に、その言葉通り「絶望」である可能性に思い至った。
望まない関係から逃れたいとずっと願っていた冬芽は、ウテナと共にあることを選択した時点で、その「望まない関係」からも逃れられないことを「絶望と共に」(世界の果てまで)受け入れたのではないだろうか。
ウテナへの愛ゆえに学園世界にとどまることは、「プレイボーイ」であることをも受け入れることになるという、矛盾した未来。自分の絶望が続くと同時に、ウテナをもその絶望的な世界に閉じ込めることを意味する。
そこにはきっと未来が見える
かくして、ウテナの記憶(とアンジーの決意)と引き換えに学園世界は崩壊し、冬芽も消えた。
「星」をみた時の感情にのみ、微かにウテナの心に、冬芽の痕跡を認めることができる。
「プレイボーイ演じなきゃいけなくても、ウテナと一緒ならいいじゃない!忘れられちゃうなんて残酷」とも思うけれども、もしウテナだったら、冬芽がそんな関係に晒されているのを見るのは辛いはずだし(冬芽にとっても自分にとっても)、冬芽ならウテナを学園世界に閉じ込め続けることを望まないと思うし、冬芽が死者である限り、この終わり方がベストだったのかも…。(何より、話に収集がつかない)
星を空を見上げてください
そこにはきっと未来が見えることでしょう
2人でプラネタリウムに行くという、果たされなかった約束。2人で星を見るという未来。
ウテナが星を見る時、叶わなかった未来が無意識下に浮かび、涙を流させるのかもしれない。
